現場から学ぶということ
2025年 11月 04日

溝をさらっていると、堆積した土の中からサワガニがひょっこり顔を出したり、カエルが跳ね出てきたり、ミミズが動いていたりします。苔が水を蓄え、小さな水の流れが地中から染み出しているのも見える。そうした瞬間に、土地が生きていることを実感します。
「現地に行かないとわからないこと」というのは、まさにこういうことです。
地図やデータの上では見えない、微細な変化。湿り気のある空気や、日当たりの向き、風の抜け方、土の匂い。こうした感覚が、建築を考える上で何よりの情報になります。
掃除をしていると、近所の方々が声をかけてくれました。「最近は鹿が多くてね、夕方の4時ごろになると山から降りてくるんですよ」
「イノシシも出るから気をつけて。あの掘り返された跡、たぶんミミズを探してるんです」
そう教えてもらいながら、実際に掘り返された土を見て、なるほどと納得しました。
動物たちの痕跡も、この土地の一部。
山と人の距離が近い場所では、こうした「生きものの営み」とどう付き合うかも含めて、環境をデザインする必要があります。
最近は熊の目撃情報もあるそうです。
「ここから少し上の方で見たって話があってね」
そんな話を聞くと少し身が引き締まりますが、それもまた山と暮らす現実です。
木造建築を手がける立場として、私は改めて「林業の再生」が建築だけでなく、地域全体にとっても重要だと感じました。
山を元気にすることは、木を使うことだけではなく、森の循環そのものを取り戻すこと。健やかな森があれば、水の流れが整い、そこに生きる魚や虫たちの環境が豊かになります。やがてそれが下流の田畑を潤し、海の恵みへとつながっていく。
そうした「大きな循環」の一端に、建築がどう関わるか。それを考えるためには、やはり現場に立ち、土に触れ、風を感じることが何よりの学びになります。

設計事務所というと、図面を引く仕事だと思われがちです。
もちろんそれも大切な仕事ですが、私にとっての設計は、土地の声を聴きながら、その場所に最もふさわしい形を探る行為です。
自然と人との間に、新しい関係を築くこと。
それは机の上だけでは決して見えてこない。
この綾部の土地での手入れは、そうした学びの原点を思い出させてくれます。土を掘り返し、水の流れを整え、木々の成長を見守る。そうしていると、建築を「つくる」ことと「育てる」ことの境界が、少しずつ曖昧になっていくのを感じます。

落ち葉を集めて腐葉土が作れないか?そんな事を考えながら、落ち葉を一定の場所に溜めて見る事に。
建築は、自然の一部でありたい。
それは、ただ環境に優しいという表層的な意味ではなく、人と自然の循環の中にある建築という意味で。
この土地での作業は、まるで小さなリサーチのようでもあり、瞑想のようでもあります。
無心に手を動かしながら、土の感触や風の匂いに耳を傾けていると、都市で過ごす日常の中で忘れかけていた「時間の流れ」を思い出します。
建築とは、風景をつくることでもあり、風景の一部になることでもある。そう考えると、この里山の手入れは、建築の原点に立ち返るための大切な時間なのだと思います。
本を読んでも得られない学びが、現場にはあります。自然は、静かに、しかし確かに、多くのことを教えてくれる。
これからも、アトリエボンドとして「土地と人をつなぐデザイン」を探求していきたいと思います。














